『岡田斗司夫の「風立ちぬ」を語る。』を読んだ

B00EH6H6HS岡田斗司夫の「風立ちぬ」を語る。電子版
城谷尚也 FREEex
株式会社ロケット 2013-08-11

by G-Tools

「風立ちぬ」を観てまったく感動できず、それどころか若干の腹立たしさすら感じていたわけですが、その後も「感動した」という人が後を絶たず、もうこれは自分の感性がおかしいんじゃないかという気がしてました。加齢とともに涙もろくなる、って聞いてたけど、全然そんなことねーぞ、と。
「風立ちぬ」を観たときの感想はこちら。

「風立ちぬ」観てきた感想(2013.07.28)

んで、なにげなくKindleストアで読みたい本はないかなーと探していたときに見つけたのが『岡田斗司夫の「風立ちぬ」を語る。』です。

あのオタキング岡田さんが「風立ちぬ」を観てどういう感想をもったのか、「いつまでもデブと思うなよ」と言っていたのに「いつまでもガリと思うなよ」と言わんばかりの桜木花道もビックリのリバウンド王が語る「風立ちぬ」評を読んでみたいと思い、本書を購入しました。

あ、本エントリは「風立ちぬ」のネタバレを多分に含んでるので、まだ観てない人は気をつけて。

岡田さんは最初の総論でこのように述べています。

総論から言います。
宮崎駿監督の最高傑作です。僕はまさかここまでやれるとは正直思いませんでした。

何が最高傑作なのかというと、「音も映像も素晴らしい、主人公たちの愛に涙しました」なんてことは、まるっきり思わないです。
音も映像も素晴らしいけれど、結論からいうと正直なところ主人公たちの歪な愛情に感動したというか……。

えー、最高傑作だと思ったのかー。でも「主人公たちの愛に涙したってことはない」って言ってるんで、期待は持てますね。なんの期待なのかよくわからんけど。

この映画は、薄情者の恋愛の話しなんです。主人公の堀越二郎君は、何度も妹から「薄情者です」って言われるんです。極端に人間の感情をもっていないというほどではないが、感情がすごく薄いんです。

感情が薄い、というのはわかるんだけど、映画の中ではそれほどわかりやすく「感情が薄い人間」ということが描写されてるわけではないです。
正義感もあるし、人を心配する描写もあるので、ここら辺をどう感じるかは人によるかなと。
感情が薄い、というよりも、他人の感情に対して鈍感、というか配慮がないというか、そういう描写は随所にあります。

では、この映画は「そういう彼が、人の心をわかるようになる映画なのか?」というと、全然そうじゃなからすごいんですよ!

このあたりで、岡田さんがこの映画のなにが最高傑作と言っているのかなんとなくわかってきました。

宮崎駿監督はよくこんなに残酷で美しい話しを作ったなと、こう言うと「そんなにひどい話なのか?」とみんな聞こえると思うんです。でも映画で見たら綺麗だったでしょ?感動したでしょ?僕らは残酷で綺麗なものに感動するんですね。

いやいやいやいや、まったく感動できなかったんですけど。
残酷っていうか、人でなしすぎて腹立たしかったんですけど。

僕たちは残酷で美しいというのは、エヴァみたいなものしか知らなかったんだけども、宮崎駿監督が作るとそうじゃないんです。全編が美しく見えるんだけど、その裏には人間のエゴが入っていて、僕らはそのエゴが一見わからない。
なのでこの映画の残酷さがよくわからないんです。

エヴァみたいに画で残酷と美しさを見せるんではなく、「庵野君はその程度か?俺がやったらこうだ!」ってすごいのを出した来たんです。だから僕は、宮崎駿作品の最高傑作だなと思うんですね。

岡田さんはストーリーや内容が最高傑作だと言ってるんじゃなく、「残酷さ」を表現するための手法や演出を最高傑作だと言ってるような気がします。
メインテーマがそれならたしかにそうなのかもしれないけど、この映画のテーマやメッセージすら読み解けなかったので、それが伝えたかったんだとしたらもはや自慰じゃねーの、って気がします。伝わってナンボだろ、と。

これが、凡庸な普通の映画監督だったら、菜穂子さんが「はぁはぁはぁ」と死にそうになって、「二郎さん、二郎さん、あの日飛ばした紙飛行機」って言いながら、紙飛行機の想い出の画と飛んでる試作機の画を、半透明に一緒に飛ばしてバラバラになる危機をギリギリで回避して菜穂子の元に飛んでいく、そして、危篤の報告を聞いた二郎君が病室へ走って辿りつこうとした瞬間、菜穂子さんが死んで医者が「ご臨終です」みたいなことを絶対にやるんです。

でも、宮崎駿監督はそれをしないんです。そんなことをしなくても分かるやつはわかるし、俺はそんなお涙頂戴の映画を作っているつもりはないと宮崎駿監督は思ってるんです。

そうなんです。お涙頂戴的な描写はほとんどないんです。
だから、二郎さんの自分勝手さと、菜穂子さんの健気さを見たとき、感動ではなく腹立たしさと苛立を覚えたんだと思います。

っていうか、この描写で感動して泣くってのは誰目線なの?菜穂子さん目線で可哀想だって泣いてんの?
よくわからんのだけど。

そんなわけで、岡田斗司夫さんの「風立ちぬ」解説については概ね同意です。
その上で、真逆の感情が沸き起こってるわけですが。

で、岡田さんの解釈はこちらの感想と酷似してるなーと思いました。

『風立ちぬ』を見て驚いたこと

ただ、上記エントリの感想でも、岡田さんの感想でも二郎さんは「薄情者」って言われてるけど、ちょっと違う印象です。
薄情者ってのは、相手の気持ちや感情を(わかっているのに)軽視することを指す気がします。思いやりがなくて冷たい人が「薄情者」だとしたら、堀越二郎さんは思いやりもあるし、正義感もある人です。ただ、他人の気持ちがわからない、他人の感情が理解できない、自分がこうしたらどう思われるかってことがわからない。そういう人なんじゃないかなって気がします。

この映画を観てどう思うのが正解で違う感想を持ったら間違いってものでもないと思うので、いろいろな人が観てまったく違った感想を持つってことで、この映画が最高傑作なのかもしれんな、って気がしてきましたよ。